冬のある日、渋谷区広尾。ザ・パークハウス広尾羽澤を前にした私は、ただひたすら圧倒されていた。とても全貌を視界に収められないほどの大きさ。建物を囲む石造りの擁壁(ようへき)が、見渡す限りどこまでも延びている。それもそのはず、このマンションの敷地面積は8,000平方メートルを超えるのだ。
都内でも有数の高級住宅地・広尾に、どうしてこれほど広大な土地を確保できたのか。それを知るには、ここにマンションが建つまでの歴史をたどる必要がある。
ザ・パークハウス広尾羽澤。上から見ると、その広大さは一目瞭然。
エントランスアプローチ。かつて羽澤ガーデンの敷地内にあった石畳や景石などが利用されている。
ザ・パークハウス広尾羽澤が建つ場所には、かつて「羽澤ガーデン」があった。羽澤ガーデンはもともと、中村是公(これきみ)という人物の邸宅として、1915年に建設されたものである。是公は明治・大正期の官吏で、南満州鉄道の総裁や東京市長を歴任した。夏目漱石の昔からの友人としても知られ、一説には「こころ」の登場人物・Kのモデルだとも言われる。
戦後、是公邸は羽澤ガーデンと名を変え、各界の名士が訪れる料亭となった。結婚式場としても利用され、長く愛されてきたが、2005年に営業を終了。その跡地に2014年に建てられたのが、ザ・パークハウス広尾羽澤というわけだ。
建築にあたっては、羽澤ガーデン内の樹木や石などをできる限り保存する方針がとられた。多くの木々に加え、設置されていた暖炉や庭石といったものが、新しいマンションの中に取り入れられていったのだ。
敷地の一角に建てられた、この地の歴史を語る碑。
このように古いものを大切にしつつ、現在、そして未来の住人に対する気配りもしっかりとなされている。宅配ボックスや24時間利用可能なゴミ置場といった設備に加え、各住戸への新聞配達も行う。ユニークなサービスとしては、車の出庫に関する「リモート出庫予約システム」がある。電話で機械式駐車場の出庫予約をすることで、車をリフト近くに待機させ、出庫時の待ち時間を短縮できる仕組みだ。住人が自分の時間を有意義に使えるよう、きめ細かな設備・サービスが用意されている。
セキュリティ面では、厳重な対策は当然ながら、利便性にも配慮している。住戸の鍵として採用しているのはハンズフリーキーだ。鍵を携帯していれば、メインエントランスからエレベーターホールまでの間に設置された複数のオートロックが、近づくだけで解錠できる。守りが堅すぎて、住人が出入りするのも面倒……というような心配は無用だ。
敷地内の各所に植栽が配置され、爽やかな空気が流れる。
ところで、前述の中村是公と夏目漱石の親交は、とても深いものであったらしい。漱石の次男・夏目伸六の作品にも、漱石が何のこだわりもなく付き合うことができた友人は是公だけだったという記述がある。それは、若いころからの友人だったということに加え、「べらんめえ総裁」などとも呼ばれた是公の豪放な性格によるところも大きいと私は思う。是公の性格を示すエピソードのひとつに、ペストの流行の兆しが現れたときの話がある。当時、対策予算として20万円が計上されたが、そこに「1」を書き加えて120万円の予算を獲得。その費用で、ペストが流行るのを見事に防いだという。真偽のほどは定かではないが、そういった逸話が残るほど大胆な人物だったということだろう。
ザ・パークハウス広尾羽澤は、単に羽澤ガーデンの植物や石を継承しているだけではなく、往年の是公の精神をも受け継いでいるのではないか。それこそが、初めにこのマンションから感じた圧倒的な大きさの正体だったのかもしれない。
物件名称 | ザ・パークハウス広尾羽澤MAP | 所在地 | 東京都渋谷区広尾3丁目12-17 |
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賃料 | --- 円 | 交通 | 東京メトロ日比谷線「広尾」駅徒歩12分 |
間取 | 2LDK,3LDK | 専有面積 | --- |
構造/階建て | 鉄筋コンクリート造/地上5階 | 築年月 | 2014/05 |
総戸数 | 114戸 | 管理人 | |
駐輪場・バイク置き場 | 設備 | 、 | |
特徴 | 備考 | ||
特記事項 | 次回更新日 |
エントランスアプローチは石造りの壁が印象的。要所に配された石が、どことなく料亭のような風情を醸し出す。また、その先に広がる空間でも、石が効果的に用いられている。帰宅するのが楽しみになりそうな、落ち着きと風格のある佇まいだ。
建物の周囲には植栽が贅沢に配され、毎日の暮らしに潤いを与えてくれる。広大な敷地にもかかわらず、どの角度から見ても手入れが行き届いており、マンションの格の高さを感じさせる。植栽はまた、目隠しとしても役立つ。
オートロックや防犯カメラ、セキュリティシステムといった設備に加え、24時間有人管理を実施。機械と人の目で、住人の安全を二重に見守っている。また、駐車場のシャッターは専用のリモコンで開閉する仕組み。防犯性を保ちつつ、スムーズな車の出入りを実現している。
有栖川宮記念公園(約1120m/徒歩14分)。有栖川宮家の御用地だった土地を公園として整備し、1934年に開園した。園内では、池や滝、渓流など、変化に富んだ景観を楽しむことができる。また、都立中央図書館も併設。蔵書数は約202万冊で、国内の公立図書館としては最大級である。
近隣には大使館が複数立地する。写真はチェコ共和国大使館(約300m/徒歩4分)。
アトレ恵比寿(約830m/徒歩11分)。JR恵比寿駅直結の商業施設。食料品店やファッションのショップ、レストランなど、幅広い店がそろう。
日本赤十字社医療センター(約280m/徒歩4分)。内科や外科、麻酔科、放射線科など、幅広い診療科を備えている。東京都救命救急センターにも指定されており、万一の場合に心強い。
広尾プラザ(約910m/徒歩12分)。東京メトロ日比谷線の広尾駅から徒歩1分の距離にあるショッピングモール。食料品店や服飾雑貨店、スポーツクラブなどが入っている。
日本画専門の美術館、山種美術館(約180m/徒歩3分)。1階のカフェでは、開催中の展覧会にちなんだオリジナルの和菓子を味わうことができる。
記事作成 2017/12/15 高橋千尋